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番号をつけようかとも思ったが、やめておくことにする。いずれきっとわからなくなるだろうから。それぐらいの覚悟はしておこうと思う。
ずっと検索することを避けてきた。おおよその見当がついてしまったからこそ、確かめるのが怖かったのだ。しかし、あと数日ののちには本人の耳にも入ることになるであろう事実から、目を背けてばかりはいられない。『知る』必要があるという義務感のようなものが生まれた。『知る』ということに対して、別段『勇気』はいらなかった。あれほど『怖い』と感じた筈なのに、わからない…わからない… 毎日のように続いていく作業。毎日のように行う検索。知識は世界中に転がっていて、それは必ずしも正解を与えてくれるものではなかったし、必ずしも虚偽を表すものでもなかった。自ら掬い上げた『知』を自らが租借し、そして『理解』する。その作業の繰り返し。一体何年間そんなことをしてきただろうか?インターネットの世界は不可思議だ。世界中の『英知』がそこに横たわっているというのに、本当に『欲しい』ものは自らの手で探しあて、組み上げ、そして形成しなければならない。自分が『欲する』ものが生のままで存在している可能性はとても低いのだ。それだけこの物質世界には数多くの『例外』が存在し、数多くの『組み合わせ』が存在する。 だから今、目の前のブラウザに映し出されているこの『情報』も求めるものを形成する『一部』であり、そのものではないのであろう。その『事象』がこれから彼女に一体何をもたらすのか、自分にはわからないままだし、ましてや彼女がこの『情報』通りの『モノ』であるかどうかすらも判断が出来ないのだ。それは多分、今現在誰にもわからないことだろう。いくら英知が広がる世界を探し回っても、答えはない。これから先、彼女に訪れる『未来』を誰が検索することが出来るだろう? ひどく陳腐な表現だが『記録』は自分が形成していくなんらかの『結果』になると思う。それは『知識』だけでは形成出来ない、彼女がこれから経験しなければならない『事象』と組み合わされたものだ。でも今は…まだブラウザに広がる『知』のみを記しておこうと思う。彼女がこの事実を知るまでは、まだこの『記録』は自分が掬い出した『知識』とほんの僅かな『過去』に過ぎない。 ・5月中旬某日夜:レストランにて突然の多汗症状。のち、意識不明となる。T市K病院に搬送。血圧、心電図、脳波、採血、レントゲンなどの検査を一通り受けるも、原因不明。 ・翌日: 担当医が決まらず。患者本人が病院と喧嘩して強行退院。結局処置は何もしてもらえなかった。(但し、脳に気になる影があるように思えるとの話が僅かながらになされていたようだが、それに関する処置はなし) ・5月下旬某日早朝: 病院を変えてみる。M市にあるK大学病院にて診察を受ける。総合科受診。K病院同様に一通りの検査を受ける。特に異常疾患はみつからず。自律神経系の疾患を疑われ、抗鬱剤の投薬が指示される。以来、地元の病院で投薬が続けられる。 ・7月下旬某日夜: 自宅にて体調を崩しそのままT市K病院に搬送。血圧、心電図、脳波、採血、レントゲンなどの検査を一通り受けるも、以前と同様に原因不明。以前から気になるといわれていた『脳の影』は一体どうしたのだろうか…? ・7月某日: 内科と整形外科の医師が担当医となる。相変らずの全身疼痛(特に背中と腰)、足は日増しに動かなくなり、車椅子生活になっていた。院内で出来る一通りの検査結果が出たとのことで、睡眠薬と抗鬱剤、高脂血症などの薬が投与される。症状は一時的によくなることもあったが、根本的な改善にはいたらなかった。ただ、『眠れる』ということが彼女にはとてもうれしいことだったようだ。 ・7月下旬某日昼: 入院から1週間程で退院。結局詳しい原因はわからず。だが、担当医にはやはり『脳の影』が気になっていたようで、MRIによる検査を行いたいとの申し出があった。但し、彼女の背中~全身に至る疼痛が激しく、なかなか長時間同じ姿勢で寝ていることが困難だということもあり、もう少しだけ症状が落ち着くのを待つことになる。 ・8月上旬某日: MRI実施。彼女の話では何十人ものインターンが画面をみていた様子。そういうときには何かある…疑いたくはないが、サンプルになる『何か』があるのものだ。 ・8月28日: 『頭に白い影があるのは間違いないって。目の真後ろあたり。だからホルモンバランスが崩れてるんじゃないかって。今度脳外科の先生に詳しいこと聞いてみるって内科の先生が言ってた』そんな話を彼女から聞かされた。 多分わかっていたのだろうけれど…一言ぽつりと『あと何ヶ月かな?』 ・8月30日: 自分に少しだけ猶予を与えた。何も変わらなかった。いつものようにネットによる検索で得られた情報を集める。脳の影、目の後ろ、下垂体に白い影。 その事実だけでわかることは、脳腫瘍であるということ。位置から言って下垂体腺腫である可能性が高いこと。手術が必要になる可能性が高いこと。術後は比較的良好だというが、必ずしもそうではないということ。合併症がないわけではないこと。 何より、それは『脳における癌』であるということ…再発の可能性もあること… この情報も確実ではなく、一番近いものを拾い出しただけのことで本当はもっと悪性の腫瘍なのかもしれない。(希望的見解は『事実』を知ることを阻害する可能性がある) 彼女はきっと朧ながらにこの事実を『知って』いるのだと思う。 手術方法を調べたところで情けないことに、席を立つ羽目になった。 少しの間だけ目の洗浄とばかりに涙腺を緩めた。鼻の奥がつんとする感覚はいつ以来のものだろうか?そんなことをしたところで『事実』は変わらないし、当事者は『自分』ではない。本当の苦しみも辛さも『自分』にはわからないのだ。 ただ…身障者手帳を交付されることになった以前の手術後に『もう痛いのはいやだ』といった彼女の言葉が忘れられない。そこには『死んでもいいから痛いのはいやだ』が山ほどこめられているのを知っている。 それでも自分はまた『手術』を勧めるのだろう。 エゴだよ…残酷だよ…冷酷の何者でもないよ…鬼だよ…鬼ダ… 鬼にナルンダヨ… どっぺん。。。 < 前のページ次のページ >
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